OKWAVE Vol.552はディズニー・アニメーションの最新映画『ズートピア』(2016年4月23日公開)のクラーク・スペンサー プロデューサーへのインタビューをお送りします。あわせて、監督・プロデューサーの来日記者会見の模様もご紹介します。
Q 動物を起用した作品というアイディアがバイロン・ハワード監督とリッチ・ムーア監督から出てきた時、プロデューサーとしてはどう思いましたか。
Aクラーク・スペンサー自分自身『ジャングル・ブック』が大好きでしたので、ディズニー映画で動物がセリフを喋る映画を作るというアイディアにはものすごくワクワクしました。ただ、監督たちのビジョンはものすごく壮大でした。ズートピアには《ツンドラ・タウン》や《レインフォレスト地区》などいろんな地区があるという世界観や、この作品に命を吹き込むために必要なカット数などを聞いて、スケジュール通りにできるのかと、プロデューサーとしてはちょっと大変でしたし、ナーバスにもなりました。
Q 動物たちが主人公ですが人間界の縮図のような世界です。プロデューサーが手がけた『シュガー・ラッシュ』もゲームの世界に人間界の縮図のようなテーマを設けました。作品作りのお考えを聞かせてください。
Aクラーク・スペンサー良い質問ですね。『シュガー・ラッシュ』では主人公ラルフはゲームでは悪役だから本人も悪人だと決めつけられているという設定が初めからありました。ただ『ズートピア』はどういう物語になっていくか最初から決まっていたわけではなく、リサーチの中から物語が見えてくる変遷をたどりました。リサーチ期間にケニアにも行きましたが、自然界においては10%が肉食動物で、残りの90%が草食動物だということを知りました。もし、大きな草食動物のグループと小さな肉食動物のグループが一つの都市で共存しなければならないとしたら、果たして両者は仲良くできるのか、草食動物たちは肉食動物を信用できるのか、というアイディアから物語が生まれました。ですので、2つの作品のなり立ちは違いますが、相手をよく知らずに決めてかかってはいけない、ということをテーマにしているのかもしれません。まず相手のことを知って、そこから仲良くなれば一緒に生きていけると思います。物語を描く上で共感を得られるキャラクターというものは、言い換えれば、観客の皆さんがキャラクターの中に自分を見出せる要素なのだと思います。それで自分になぞらえて作品の世界を見て、キャラクターを好きになるのだと思います。それが唯一のキャラクターに感情移入してもらえる方法だと思いますし、我々のゴールです。
Q ウサギとキツネがコンビを組むというアイディアにはどうたどり着いたのでしょう。
Aクラーク・スペンサーこれはバイロン・ハワード監督からのアイディアです。彼はディズニー・バージョンの『ロビンフッド』が好きで、この作品も動物の世界でウサギやキツネが登場します。自然界の肉食動物と草食動物ということでコンビにもぴったりだと思いました。どちらも等しく応援してほしいと思いましたし、サイズ感も重要でした。ジュディは大きなサイやカバが警察官になっている中で自分も警察官になろうとします。ニックは少しニヒルで世界に対して諦めが入っているキャラクターですが、それでも応援したくなるようなキャラクターにしようと思いました。そして彼のキツネとしての大きさもピッタリだと思いました。
Q 『シュガー・ラッシュ』『ズートピア』と人間以外のキャラクターにテーマを語らせることでより伝えたかったことは。
Aクラーク・スペンサー2作とも現代が舞台になっていますし、単なるおとぎ話ではないので自分を投影しやすいと思います。『ズートピア』では人間たちの話ではないからこそ、性別、人種、宗教といったものにとらわれず、大きな視点で、押し付けやレッテルを貼らず、偏見や色眼鏡でものを見ないというメッセージを伝えることができていると思います。『シュガー・ラッシュ』もレッテルを貼られた二人のキャラクターの寓話のようにも受け止められています。人間ではない存在だからこそ、すっと入ってくるものがあるのだと思います。
Q とくに女性がジュディのように前向きに生きるにはどんなことが必要だと思いますか。
Aクラーク・スペンサー僕はジュディの父親のセリフを気に入っています。「夢を持つことは素晴らしい。ただし、信じ過ぎなければね」という父親のセリフには傷ついてほしくないという親心もあるし、世の中そんなに甘く無いというメッセージもあります。何かやるならまず失敗しないことの方がいい、ということは娘が心配だからなんです。それに対してジュディが「でも私はやる」と返すところも僕は大好きです。やはりそれがジュディの魅力ですし、小さいからといって警察官になれるわけがないと決めつけないでほしいという彼女の思いは、男性、女性に限らずみんな何かを学べると思います。もちろん、道は簡単ではありません。だけど心の声に耳を傾けてやってみなければ始まらない、ぜひ信じる心があれば何かやってみることが夢を叶える一歩になるんじゃないかと思います。
Q 全米をはじめ各国で大ヒットしていますが、子どもも大人も楽しめる作品だと思います。製作中はターゲットなど定めるものなのでしょうか。
Aクラーク・スペンサーターゲットという意味ではとにかく全世代です。大人から子どもまで、アニメーションではあるけれど、物語を描くアートの一つの形だと思って取り組んでいます。作る時に難しいのは、全ての人にアピールするストーリー、ユーモア、感動が何なのかを見極めることです。それが上手くいったのは、例えばナマケモノたちが出てくるシーンです。大人から見ると役所の官僚主義にちょっとでも触れていればあのシーンは共感してもらえる場面です。けれど、子どもはそんなことは知らないと思います。ですがナマケモノのあの見た目とゆっくりとした動きと、対照的なジュディのイライラ感が面白いんだと思います。それからミスター・ビッグは大人が見ると『ゴッド・ファーザー』へのオマージュだとすぐに気づくと思います。ですが子どもたちはミスター・ビッグの姿や声色にユーモアを見出すと思うので、両者に上手くアピールできたと思います。そこにたどり着くのは簡単ではなかったです。
Q テーマ曲とシャキーラの起用、ガゼルのキャラクターに込めた狙いをお聞かせください。
Aクラーク・スペンサーガゼルはズートピアのポップスターですが、インターナショナルな感覚のキャラクターにしたいと思いました。英語版では役者の自然なアクセントで喋ってほしいと思い、シャキーラに思い至りました。彼女はコロンビア出身で現在はスペインに住んでいますのでアクセントもちょっとスペイン訛りがあるからです。実際にお会いして印象的だったのは、この作品のメッセージにすごく共感してもらえたことです。シャキーラ自身、国連で何度もスピーチをしていますし、現在の世界の問題に積極的に関わっています。元々のガゼルのイメージは単なるポップスターでしかなかったのですが、シャキーラと会って、もっとズートピアのことを考えてアーティスト活動をしている人物にしようと思いました。そうすることでワクワクもしましたし、世界観も広がりました。そして曲の方ですが、二人目のお子さんが生まれるタイミングだったので、彼女の推薦で作曲者としてシーアを紹介されました。シーアもまた、作品に共感していただいて、たった2日間で「Try Everything」を書き上げてくれました。曲のメッセージとビートが最高でしたね。僕はこの世の歌の中でも最も好きな歌詞がこの「Try Everything」の「鳥はいま飛べなくて何度落ちても、また立ち上がって飛び立つ」(※オリジナル英語歌詞)というところで、まさにジュディのことだと思いました。夢を叶える途中で困難に出遭っても、そこで立ち止まるのではなく前に進んでいこうという素晴らしい歌詞だと思いました。それをシャキーラが歌いましたし、日本版主題歌「トライ・エヴリシング」ではDream Amiさんという素晴らしい歌手に歌っていただいて本当に幸運だと思います。
Q プロデューサーが人生において大事にしていることは何でしょう。
Aクラーク・スペンサー僕はジュディに似ているところがあります。彼女の“願えば何にでもなれるんだ”というところに共感しています。僕はアメリカの片田舎の出身で、祖父母が映画館を経営していたので、子どもの頃から自分もいつか映画に携わる仕事がしたいと思っていました。周りからは名もない少年が映画に関わるなんて無理だと言われてきました。僕は「トライしなければ」と考えて、L.A.に引っ越しました。それで映画会社に入って、20年後にはこうやって東京に来て、ウォルト・ディズニー・カンパニーで製作した作品のことをお話ししているんです。それはきっと信じられないことだと思います。この『ズートピア』でもチームメンバーを含め、周りから全て実現するのは無理なのではと言われたこともありました。けれど僕は「チーム全員が一つになれば絶対できる」と言いました。信念を持つことと、それを周りに伝えていかなければ、自分自身、信じる心は生まれないと思います。ですので、信じる心というものを大切にしています。
■Information
『ズートピア』
動物が人間のように暮らす大都会、ズートピア。誰もが夢を叶えられる人間も顔負けの超ハイテク文明社会に、史上最大の危機が訪れていた。立ち上がったのは、立派な警察官になることを夢見るウサギのジュディ。夢を忘れた詐欺師のニックを相棒に、彼女は奇跡を起こすことができるのか…?
「アナと雪の女王」「ベイマックス」のディズニーが“夢を信じる勇気”にエールを贈る、感動のファンタジー・アドベンチャー。
製作総指揮:ジョン・ラセター
製作:クラーク・スペンサー
監督:バイロン・ハワード(『塔の上のラプンツェル』)/リッチ・ムーア(『シュガー・ラッシュ』)
キャスト:
ジュディ・ホップス:ジニファー・グッドウィン/上戸 彩
ニック・ワイルド:ジャイソン・ベイトマン/森川智之
チーフ・ボゴ:イドリス・エルバ/三宅健太
クロウハウザー:ネイト・トランス/サバンナ 高橋茂雄
ライオンハート市長:J. K. シモンズ/玄田哲章
ベルウェザー副市長:ジェニー・スレイト/竹内順子
ガゼル:シャキーラ/Dream Ami
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
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■Profile
クラーク・スペンサー
ハーバード大学で歴史学の学士号を、同大の大学院にて経営学修士号を修得する。
90年、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ入社。その後、20年以上にわたり同スタジオの幹部として、財務・運営から映画製作まで、様々な役割を担う。初めて製作を務めた映画『リロ&スティッチ』(02)はヒットしてDVDシリーズやTVシリーズを生み、キャラクターたちも人気を得て、ウォルト・ディズニー・カンパニーの主力商品のひとつとなった。その後も、『ルイスと未来泥棒』(07)の製作総指揮、『ボルト』(08)や『シュガー・ラッシュ』(12)のプロデューサーとして活躍。『リロ&スティッチ』、『ボルト』、『シュガー・ラッシュ』はアカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされ、『シュガー・ラッシュ』では、彼自身がアメリカ・プロデューサー組合賞最優秀アニメーション映画賞に輝いている。